清和天皇―貞純親王―源経基―――源満仲――――源頼信――――源頼義―＋―源義家――＋―源義親
（兵部卿）（大宰少弐）（鎮守府将軍）（鎮守府将軍）（伊予守）｜（陸奥守） ｜（対馬守）
｜ ｜
＋―源義綱 ＋―源義忠 ＋―源義重―――源義兼
｜（美濃守） ｜（左衛門尉）｜（大炊助） （大炊助）
｜ ｜ ｜
＋―源義光 ＋―源義国――＋―源義康―――源義兼
（甲斐守） ｜（加賀介） （陸奥守） （上総介）
｜
＋―源為義――――源義朝―――源頼朝
（左衛門大尉）（下野守） （権大納言）
(872頃-916)
清和天皇の第六皇子。母は「母王氏、中務大甫棟貞之女」（『日本三代実録』貞観十五年四月廿一日条）。四品（『日本紀略』）。官は兵部卿。「桃園親王」と称す（『本朝皇胤紹運録』）。征夷大将軍として奥州に戦った坂上田村麻呂の五世の孫にあたり、田村麻呂の孫にあたる葛井親王の「親王頗善射芸、有外家大納言之遺風」という伝承は、子の源経基の「事実以上の武勇伝」の下地となった可能性もあろう。
貞純親王の具体的な活動や動向は記録がなく不明であるが、官途は確実なものは上野大守（『日本三代実録』寛平八年閏正月六日条）。このほか「中務卿、兵部卿」ならびに「上総、常陸等大守」（『尊卑分脈』）を歴任したという。
多治比長野――多治比真宗
（参議） （夫人）
∥――――――――葛原親王―――――高見王――――平高望―――平国香――――――平貞盛
∥ （式部卿） （上総介） （常陸大掾） （陸奥守）
∥ 藤原河子
∥ ∥――――――仲野親王――――――――――――班子女王
∥ ∥ （大宰帥） ∥
∥ ∥ ∥
∥ ∥ 藤原総継―――――藤原澤子 ∥―――――宇多天皇―――――醍醐天皇
∥ ∥ （紀伊守） ∥ ∥ ∥
∥ ∥ ∥ ∥ ∥
∥ ∥藤原乙牟漏 橘嘉智子 ∥――――＋―光孝天皇 ∥―――――村上天皇
∥ ∥∥ ∥ ∥ ｜ ∥
∥ ∥∥ ∥ ∥ ｜ ∥
∥ ∥∥ ∥ ∥ ＋―人康親王――女子 ＋―藤原穏子
∥ ∥∥ ∥ ∥ （弾正尹） ∥ ｜
∥ ∥∥ ∥ ∥ ∥ ｜
∥ ∥∥ ∥ ∥ ∥――――――＋―藤原時平
∥ ∥∥ ∥ ∥ ∥ ｜（左大臣）
∥ ∥∥ ∥ ∥ ∥ ｜
∥ ∥∥ ∥ ∥ 藤原良房＝＝藤原基経 ＋―藤原忠平
∥ ∥∥ ∥ ∥ （摂政） （関白） （関白）
∥ ∥∥ ∥――――――――仁明天皇 ∥―――――藤原師輔
∥ ∥∥ ∥ ∥ ∥ （右大臣）
∥ ∥∥ ∥ ∥――――――文徳天皇――源能有――――＋―源昭子
∥ ∥∥―――――嵯峨天皇 ∥ ∥ （右大臣） ｜
∥ ∥∥ ∥ ∥ ∥ ｜
∥ ∥∥ ∥ 藤原冬嗣―＋―藤原順子 ∥ 在原氏 ｜
∥ ∥∥ ∥（左大臣） ｜ ∥ ∥――――――｜―貞数親王
∥ ∥∥ ∥ ｜ ∥ ∥ ｜（常陸大守）
∥ ∥∥ ∥――――――――源潔姫 ∥―――――清和天皇 ｜
∥ ∥∥ 当麻氏 ｜ ∥ ∥ ∥ ∥ ｜
∥ ∥∥ ｜ ∥――――――藤原明子 ∥ ∥――――――陽成天皇
∥ ∥∥ ｜ ∥ ∥ ∥ ｜
∥ ∥∥ ＋―藤原良房＝＋＝藤原基経 ∥ ∥ ｜
∥ ∥∥ ｜（摂政） ｜（関白） ∥ ∥ ｜
∥ ∥∥ ｜ ｜ ∥ ∥ ｜
桓武天皇 ＋―藤原長良―＋―――――――――藤原高子 ＋―女子
∥ （権中納言） ∥ ∥―――――源経基
∥ ∥ ∥ （大宰少弐）
∥――――――――葛井親王―――＋―基兄王 ∥――――――――貞純親王
∥ （大宰帥） ｜（大蔵卿） ∥ （兵部卿）
∥ ｜ ∥
坂上田村麻呂―坂上春子 ＋―基棟王 ∥
（大納言） ｜（刑部卿） ∥
｜ ∥
＋―棟貞王――――――――――女子
｜（神祇伯）
｜
＋―棟氏王
｜（散位）
｜
＋―棟良王
（中務大輔）
貞観１５（８７３）年４月２１日、清和天皇は皇太子貞明親王を除く子女八人に親王宣下、四人に源姓を下賜した（『日本三代実録』貞観十五年四月廿一日条）。賜姓は桓武天皇以来の皇親削減政策による国費保護の先例に則ったものと推測され、桓武天皇以来、皇子や皇孫等に賜姓が行われている。清和天皇の勅にも「当分茅土之重、多致帑蔵之費、寤寐頽愁、心魂罔措、若渉洪水而无舟楫」（『日本三代実録』貞観十五年四月廿一日条）と記す。清和天皇は原則子女すべてに源姓を下賜し朝臣とする方針を取るも「故其不獲已者、擇之以為親王」とあるように、「不獲已」理由により八名に対して親王宣下が行われた。一方で天皇は「唯須其後一世早停王號、即賜朝臣、以国家之経用、頗加公謙之篤情」と追記しており、彼らの子については王号を認めず「早停王號、即賜朝臣」の旨も同時に宣言している。
今回親王宣下された皇子女はすべて清和天皇と血筋の繋がる女性を生母としており、これが「不獲已」の理由であろう。こうした皇子は誕生時すでに諱に「貞」字を下されている。一方、官吏層出身者の女性を生母とする皇子は誕生時に「長」字を下されており、皇子女は源姓が下賜された。誕生時すでに明確に出自による分類がなされており、清和天皇の皇子女に対する親王宣下と源姓下賜はこの基準に基づいている。
掃守王―――――乙訓女王
（摂津大夫） ∥――――――藤原綱継―――――藤原吉野――藤原良近―――――――――――――女子
∥ （掃部頭） （中納言） （神祇伯） ∥
＋―藤原宇合――＋―藤原蔵下麿 ∥――――――――――貞平親王
｜（式部卿） ｜（大宰帥） ∥
｜ ｜ ＋―藤原黒麿―――――藤原春継――藤原真宗――――――――――女子∥
｜ ｜ ｜（因幡守） （中務大輔）（掃部頭） ∥―――――――――――貞頼親王
｜ ｜ ｜ ∥∥
＋―藤原武智麿―――藤原巨勢麿―＋―藤原真作―＋―――藤原三守――藤原仲統――――――――――――――――女子
｜（左大臣） ｜（参議） （阿波守） ｜ （右大臣） （治部卿） ∥∥ ∥――――――貞元親王
｜ ｜ ｜ ∥ ∥∥ ∥ （上野大守）
｜ ｜ ｜ ∥―――――藤原有統――――藤原諸葛―――――女子 ∥
｜ ｜ ｜ ∥ （侍従） （中納言） ∥∥ ∥ ∥
｜ 橘諸兄―――――橘奈良麿―――橘清友―――｜―＋―橘安子 ∥∥ ∥――――――――孟子内親王
｜（左大臣） ｜（左大弁） （内舎人） ｜ ｜ ∥∥ ∥ ∥
｜ ｜ ｜ ｜ ∥∥ ∥ ∥
｜ ＋―藤原良継―――藤原乙牟漏 ｜ ＋―橘氏公―――橘峯継―――＋―橘清蔭 ∥∥ ∥ ∥
｜ （内大臣） ∥ ｜ ｜（右大臣） （中納言） ｜（少納言） ∥∥ ∥ ∥
｜ ∥ ｜ ｜ ？ ∥∥ ∥ ∥
｜ ∥ ｜ ＋―橘嘉智子 ＋―橘休蔭――女子∥∥ ∥ ∥
｜ ∥ ｜ ∥ （治部大輔） ∥∥∥ ∥ ∥
｜ ∥ ｜ ∥ ∥――――――――――――貞固親王
｜ ∥ ｜ ∥―――――仁明天皇 ∥∥∥ ∥ ∥ （弾正尹）
｜ ∥―――――――＋―嵯峨天皇 ∥ ∥∥∥ ∥ ∥
｜ ∥ ｜ ｜ ∥―――――――文徳天皇 ∥∥∥ ∥ ∥
｜ ∥ ｜ ｜ ∥ ∥ ∥∥∥ ∥ ∥ ＋―包子内親王
｜ ∥ ｜ ｜ ∥ ∥―――――清 和 天 皇 ｜
｜ ∥ ｜ ｜ ∥ ∥ ∥∥ ∥ ∥ ∥ ｜
｜ ∥ ｜ ＋―平城天皇――――阿保親王 ∥ ∥∥――――――――＋―貞数親王
｜ ∥ ｜ ∥ ∥ ∥ ∥∥ ∥ ∥ ∥
｜ ∥ ｜ ∥ ∥―――――――在原行平――女子 ∥ ∥ ∥
｜ ∥ ｜ ∥ ∥ ∥（左衛門督）∥ ∥ ∥ ∥
｜ 桓 武 天 皇 ――――――――――――∥―伊都内親王 ∥ ∥―――――――――＋―陽成天皇
｜ ∥ ｜ ∥ ∥ ∥ ∥ ∥ ∥ ｜
｜ ∥ ＋―藤原美都子 ＋―藤原順子 ∥ ∥ ∥ ∥ ∥ ｜
｜ ∥ （尚侍） ｜ ∥ ∥ ∥ ∥ ∥ ＋―貞保親王
｜ ∥ ∥ ｜ ∥ ∥ ∥ ∥ ∥ ｜（中務卿）
｜ ∥ ∥ ｜ ∥ ∥ ∥ ∥ ∥ ｜
｜ ∥ ∥―――――＋―藤原良房―――藤原明子 ∥ ∥ ∥ ∥ ＋―敦子内親王
＋―藤原房前―＋―藤原真楯――藤原内麿―――藤原冬嗣 ｜（摂政） ∥ ∥ ∥ ∥
（参議） ｜（大納言）∥（右大臣） （左大臣） ｜ ∥ ∥ ∥ ∥―――貞純親王
｜ ∥ ＋―藤原長良―＋―――――――藤原高子 ∥ ∥ ∥ （上野大守）
｜ ∥ （権中納言）｜ ∥ ∥ ∥
｜ ∥ ｜ ∥―――――――貞辰親王
｜ ∥ ＋―藤原基経―――――藤原佳珠子∥ ∥
｜ ∥ （関白） ∥ ∥
｜ ∥ ∥―――――貞真親王
＋―藤原永手――藤原峯人―――藤原恒長――――――藤原諸蔭―――――――――――――――――女子 ∥
（右大臣）∥（安芸守） （式部少輔） ∥
∥ ∥
∥――――――――葛井親王――――――棟貞王――――――――――――――――――――女子
∥ （大宰帥） （神祇伯）
坂上田村麿――――――坂上春子
（大納言）
「皇子貞純」の生母は藤原氏や橘氏とはまったく血縁関係を持たないが、王氏出身かつ桓武天皇の曽孫であることから、親王宣下されたものであろう。
●「定親王八人源氏四人」（『日本三代実録』貞観十五年四月廿一日条）：陽成天皇は原文なし表中での追記
| 名 | 母 | 宣下 賜姓 |
生年 | 官位歴、薨伝等 |
| （貞明） 陽成天皇 |
女御藤原氏、中納言長良之女 | ― | 貞観10(868)年12月16日 | 貞観11(869)年2月1日皇太子 貞観18(876)年11月29日受譲為帝(9歳) 天暦3(949)年10月23日崩 |
| 貞固 | 橘氏、治部大輔休蔭之女 | 親王 | 貞観10(868)年～ 貞観12(870)年8月 |
元慶8(884)年2月23日無品⇒四品 元慶8(884)年3月9日常陸大守 仁和3(887)年5月11日兼弾正尹 |
| 貞元 | 藤原氏、参議治部卿仲統之女 | 親王 | 貞観10(868)年～ 貞観12(870)年8月 |
仁和3(887)年正月七日無品⇒四品 仁和3(887)年2月17日上野大守 延喜9(910)年11月26日薨（『日本紀略』） 號閑院親王 |
| 貞保 | 女御藤原氏、中納言長良之女 | 親王 | 貞観12(870)年9月13日 第四皇子誕貞保、皇太子同母弟也（『日本三代実録』） |
元慶6(882)年正月2日元服、三品 元慶6(882)年4月26日上野大守 仁和2(886)年6月26日中務卿（在任） 延長2(924)年6月19日薨去、55歳 「十九日、二品行式部卿貞保親王薨、年五十五」 |
| 貞平 | 藤原氏、右中弁良近之女 | 親王 | 貞観12(870)年から 貞観15(873)年の間 |
延喜13(913)年3月6日薨去 「(延喜十三年)三月六日、三品貞平親王薨」（『日本紀略』） |
| 貞純 | 王氏、中務大輔棟貞之女 | 親王 | 貞観12(870)年から 貞観15(873)年の間 |
延喜16(916)年5月7日薨去、32歳 「(延喜十六年)五月七日辛酉、四品貞純親王薨年卅二、清和天皇皇子」（『日本紀略』） |
| 孟子 | 藤原氏、兵部大輔諸葛之女 | 親王 | 延喜元(900)年6月27日薨去 「(延喜元年)六月廿七日丁丑、孟子内親王薨」（『日本紀略』） |
|
| 包子 | 在原氏、参議左衛門督行平之女 | 親王 | 寛平元(889)年4月22日薨去 「(寛平元年)四月廿二日癸未、無品包子内親王薨、清和第一皇女」（『日本紀略』） |
|
| 敦子 | 女御藤原氏、中納言長良之女 | 親王 | 延長8(930)年正月13日薨去 「延長八年正月十三日、前斎院無品敦子内親王薨清和第五皇女」（『日本紀略』） ※陽成天皇、貞保親王の同母姉妹 |
|
| 長猷 | 賀茂氏、越中守岑雄之女 | 源氏 | 元慶3(879)年11月25日無位⇒従四位上 仁和2(886)年8月14日当時散位 延喜7(907)年2月19日、伊勢守 延喜8(908)年、近江守 延喜18(918)年9月29日薨去 「(延喜十八年)九月廿九日、従三位刑部卿源朝臣長猷薨」（『日本紀略』） |
|
| 長淵 | 大野氏、前石見守鷹取之女 | 源氏 | 元慶7(883)年正月七日無位⇒従五位上（『日本三代実録』） 仁和元(885)年2月20日、武蔵権守（当時従四位上） |
|
| 長鑒 | 佐伯氏、信濃権介子房之女 | 源氏 | ||
| 載子 | 賀茂氏、越中守岑雄之女 | 源氏 | ||
| ～貞観15(873)年以降誕生～ | ||||
| 識子 | 藤原良近女 「更衣故神祇伯従四位下藤原朝臣良近之女」 |
親王 | 貞観16(874)年 「貞観十八年三月十三日辛卯、皇女識子爲内親王、年三歳」（『日本三代実録』） |
延喜6(906)年12月28日「識子内親王薨」（『日本紀略』） 享年三十三(逆算) |
| 貞辰 | 女御佳珠子（基経女） 「右大臣従二位藤原朝臣基経女」 |
親王 | 貞観16(874)年 「貞観十七年十月十五日甲子、皇子貞辰為親王、右大臣従二位藤原朝臣基経女所生也、于時年二歳」（『日本三代実録』） |
延長7年4月21日薨去、56歳 「(延長七年)四月廿一日、四品貞辰親王薨年五十六」（『日本紀略』） |
| 貞数 | 行平女 「母更衣参議太宰権帥従三位在原朝臣行平之女」（『日本三代実録』） |
親王 | 貞観17(875)年 「貞観十八年三月十三日辛卯、皇子貞数為親王、年二歳」（『日本三代実録』） |
包子内親王の同母弟 延喜16(916)年薨去、33歳（実42歳） 「延木十六薨去」卅三（『本朝皇胤紹運録』） 「延喜十六年五月十九日薨、年四十二」（『一代要記』） |
| 長頼 | 佐伯子房女 「母更衣従五位下行信濃権介佐伯宿禰子房之女」」（『日本三代実録』） |
源氏 | 貞観16(874)年 「貞観十八年三月十三日辛卯、皇子長頼、賜姓源朝臣、年二歳」（『日本三代実録』） |
源長鑒の同母弟。 |
| 貞真 | 斎宮頭諸蔭女 「更衣斎宮頭従五位上藤原朝臣諸藤之女」」（『日本三代実録』） |
親王 | 貞観18(876)年 「貞観十八年（十一月廿五日、皇子貞眞、年一歳、貞頼年一歳並為親王」（『日本三代実録』） |
承平元(931)年9月20日薨去、56歳 「承平元年九月廿日甲辰、三品常陸太守貞真親王薨年五十六」（『日本紀略』） |
| 貞頼 | 木工允藤真宗女 「更衣木工允正六位上藤原朝臣直宗之女」」（『日本三代実録』） |
親王 | 貞観18(876)年 | 延喜22(922)年2月8日薨去、47歳 「(延喜廿二年)二月八日己未、四品貞頼親王薨清和第十皇子、年四十七」（『日本紀略』） |
寛平８（８９６）年閏正月６日、宇多天皇は「北野雲林院」に行幸されたが、その際「其扈従者、皇太子及一品式部卿本康親王、上野太守四品貞純親王、四品貞数親王、大納言正三位源朝臣能有、中納言従三位藤原時平、中納言源光、中納言菅原道真、参議従三位藤高藤、従三位藤原有実、三議源真、参議正四位下源貞恒、参議源希」らが供奉した（『日本三代実録』寛平八年閏正月六日条）。
延喜１６（９１６）年５月７日、三十二歳（『日本紀略』）または六十四歳（『尊卑分脈』）で薨去と伝わる。ただし、ここから逆算した誕生年はいずれも矛盾点があるため正確ではない。
| 出典 | 没年齢 | 生年 | 矛盾点 |
| 『日本紀略』 | 32歳 | 仁和元(885)年 | 貞観15(873)年4月21日の貞純への親王宣下と矛盾 |
| 『尊卑分脈』 | 64歳 | 仁寿3(853)年 | 長兄貞明親王(陽成天皇)の生誕が貞観10(868)年12月16日（『日本三代実録』貞観十二年九月十三日条）であるため、仁寿3(853)年生まれでは、長兄貞明より5年早く誕生していることになる矛盾 |
貞純親王の誕生年は、異母兄の貞保親王が誕生した貞観１２（８７０）年９月１３日（『日本三代実録』）以降、親王宣下された貞観１５（８７３）年４月までの間である。延喜１６（９１６）年の薨去から考えると、没年齢は四十四、五歳だったと推測される。
大納言坂上田村麻呂の娘。桓武天皇のキサキ。官途は従五位上（『日本後紀』延暦廿三年七月七日条）、従四位下（『日本文徳天皇実録』嘉祥三年四月二日条）。
延暦１９（８００）年に皇子の葛井親王を産んだ（『日本文徳天皇実録』嘉祥三年四月二日条）。その後、皇女の春日内親王を産む。春日内親王の誕生年は不祥だが、弘仁２（８１１）年８月１４日に「山城国乙訓郡地一町」が春日内親王に下賜されている（『日本後紀』弘仁二年八月十四日条）。葛井親王は延暦２４（８０５）年８月１日に五歳で「山城国相楽郡白田十三町」を下賜されている（『日本後紀』延暦廿四年八月朔日条）ことを考えると、延暦２４、５年頃か。
延暦２３（８０４）年７月７日、春子は桓武天皇の「観相撲」に従い「従五位上」を授けられる。その後、具体的な記録はないが、従四位下まで進んだ（『日本文徳天皇実録』嘉祥三年四月二日条）。
葛井親王（800-850）
桓武天皇の第十二皇子。母は「大納言贈正二位坂上大宿禰田村麻呂之女、従四位下春子」（『日本文徳天皇実録』嘉祥三年四月二日条）。正室は「嵯峨太上天皇第十二女」の「无品齊子内親王」（『日本文徳天皇実録』仁寿三年五月十六日条）。品位は三品。官途は兵部卿、上野太守、常陸太守、大宰帥。桓武平氏の祖となる異母兄葛原親王とは十四歳差である。
文屋久賀麻呂――文屋文子
∥
∥――――――齊子内親王
藤原良継――――藤原乙牟漏 ∥ ∥
（内大臣） ∥―――――――嵯峨天皇 ∥
∥ ∥
桓武天皇 ∥
∥ ∥
∥――――――――――――――葛井親王
坂上田村麻呂――坂上春子 （大宰帥）
（大納言）
「親王幼而機警」と、幼くして賢才の噂のある親王だったという。「年六歳、勅賜帯剣」とあるように、延暦２４（８０５）年、わずか六歳にして桓武天皇より帯剣を下賜された（『日本文徳天皇実録』嘉祥三年四月二日条）。８月１日には「山城国相楽郡白田十三町」が食封として下賜された（『日本後紀』延暦廿四年八月朔日）。
葛井親王は「親王頗善射芸」と、射術を得意としており、それは「有外家大納言之遺風」とあるように、外祖父の故坂上田村麻呂を彷彿とさせる姿だったという。あるとき「甞嵯峨天皇御豊楽院、以観射礼」ことがあった。このとき「諸親王及群臣、各以次射」した。このとき葛井親王は「親王時年十二」であったが、兄の嵯峨天皇は「戯語親王」って「弟雖少弱、当執弓矢」と葛井親王に告げた。これに「親王、応詔而起」って矢を射たところ「再発再中」という腕前であった（『日本文徳天皇実録』嘉祥三年四月二日条）。このとき「外祖父田村麻呂、亦侍坐」していたが、居ても立ってもいられず「驚動喜躍、不能自已、即便起座抱親王而舞」と、葛井親王を抱き抱えて舞った。そして天皇の前に進み出て「臣、甞将数十万之衆、征討東夷、実頼天威所向無敵、自料、勇略兵術多所不究、今親王年在齠齔、武伎如此、愚臣非所能及」と、葛井親王を褒め称えた。これには嵯峨天皇も大いに笑って「将軍、褒揚外孫、何甚過多」と嗜めている。この豊楽院（中京区聚楽廻西町80）での射礼は葛井親王が十二歳のときのことであり、弘仁２（８１１）年のこととわかる。この年に行われた豊楽院での射礼は正月１７日の「御豊楽院、観射、藩客賜角弓射焉」（『日本後記』弘仁二年正月十七日条）のみであることから、この日の出来事であろう。
弘仁４（８１３）年８月１８日、「葛井親王冠、宴群臣賜禄」（『日本紀略』弘仁四年八月十八日条）の通り、元服した。時に葛井親王十四歳。元服の宴は三日間続いたようで、８月２０日には「賜禄」という（『日本紀略』弘仁四年八月廿日条）。
弘仁１０（８１９）年、「賜爵四品」し、兵部卿を拝任する。その後、天長３（８２６）年に上野大守に任じられ、承和元（８３４）年正月１２日、「為常陸大守」（『続日本後紀』承和元年正月十二日条）となる。
承和２（８３５）年正月２３日、仁明天皇は御射場に臨み、射的の御会を行った（『続日本後紀』承和二年正月廿三日条）。この際「常陸太守葛井親王、右大臣清原真人夏野等」がこれに従っており、彼らも天皇とともに弓術を競ったとみられる。その後、「至中鵠之人」と「取御箭内豎大舍人」には布が下された。
承和７（８４０）年正月３０日にもまた「為常陸太守」されている（『続日本後紀』承和七年正月三十日条）。翌承和８（８４１）年１１月２０日に「四品葛井親王三品」（『続日本後紀』承和八年十一月廿日条）と「進爵三品」（『日本文徳天皇実録』嘉祥三年四月二日条）した。嘉祥３（８５０）年正月１５日には「三品葛井親王為大宰帥」となる（『続日本後紀』嘉祥三年正月十五日条）。
葛井親王は「耽愛聲楽、殊翫絲管」といい、管弦を好んだ。また酒を好み、「晩年好酒、志在讌楽、累日連夜、淵酔忘疲」と、連夜泥酔するまで深酒するという生活に体を壊したのだろう。大宰帥となってわずか三か月余りの嘉祥３（８５０）年４月２日、五十一歳で薨じた（『日本文徳天皇実録』嘉祥三年四月二日条）。「親王有子廿余人」という。
同母妹には春日内親王がいたが、正確な生年は不明。弘仁２（８１１）年８月１４日、春日内親王は食封として「山城国乙訓郡地一町」（『日本後紀』弘仁二年八月十四日条）が下賜され、その翌年弘仁３（８１２）年３月２１日、「山城国乙訓郡陸田一町九段」（『日本後紀』弘仁三年八月十四日条）が下された。品位は無品のままで、天長９（８３２）年１２月２４日、薨じた（『日本紀略』天長九年十二月廿四日条）。
棟貞王（???-???）
大宰帥葛井親王の子。母は不明。官途は中務大輔。女子は清和天皇キサキ（『日本三代実録』貞観十五年四月廿一日条）。
●棟貞王の兄弟（葛井親王子）
| 名前 | 生没年 | 没年 | 事歴 |
| 基兄王 | 弘仁15(824)年 | 元慶5(881)年 11月25日 |
承和11(844)年正月7日：无位→従四位下（基枝王）。（続日本後紀） 承和12(845)年7月3日：宮内大輔に任官。（続日本後紀） 承和14(847)年2月11日：民部大輔に任官。（続日本後紀） 嘉祥3(850)年3月16日：柏原御陵への使者。（続日本後紀） 仁寿元(851)年4月1日：従四位下→従四位上(誤？)（日本文徳天皇実録） 齊衡3(856)年正月7日：従四位下→従四位上（日本文徳天皇実録） 天安元(857)年9月10日：山城守に任官（日本文徳天皇実録） 天安2(858)年8月27日：文徳天皇崩後、基兄王は右京権亮従五位下巨勢朝臣河守、六位以下二人とともに「作路司」となる。（日本三代実録） ・こののち、山城守を辞して散位となる。（日本三代実録） 貞観5(863)年2月10日：民部大輔に任官。（日本三代実録） 貞観7(865)年正月27日：安芸守に任官（丁母憂去職）。（日本三代実録） 貞観7(865)年5月16日：安芸守に任官（詔以本官起之）。（日本三代実録） 貞観11(869)年2月16日：弾正大弼に任官。（日本三代実録） 貞観12(870)年2月21日：刑部卿に任官。（日本三代実録） ・この間に大蔵卿に転任。 貞観16(874)年正月7日：従四位上→正四位下（日本三代実録） 元慶5(881)年11月22日：基兄王卒（三品葛井親王長子也、年五十八）（日本三代実録） |
| 棟氏王 | 不明 | 貞観5(863)年 正月21日 |
天安2(858)年11月7日：無位→従四位下（日本三代実録） 貞観3(861)年、下野守に任官（日本三代実録） 貞観5(863)年正月21日：散位従四位下棟氏王卒（日本三代実録） ※「貞観三年正月、拝下野守、未遂秩限而卒」とあるが、卒去時には散位であり、それ以前に辞していたと考えられる。 |
| 棟良王 | 不明 | 元慶元(877)年 5月27日 |
貞観元(859)年11月19日：無位→従四位下 元慶元(877)年5月27日：散位従四位上棟良王卒 |
齊衡元（８５６）年正月７日、「无位」から「従四位下」に直叙された（『日本文徳天皇実録』齊衡三年正月七日条）。選叙令蔭皇親條によれば「凡蔭皇親者、親王子従四位下」とあり、同令授位條では「凡授位者、皆限年廿五以上、唯以蔭出身、皆限年廿一以上」とある。兄の基兄王はこの條々に沿って、「親王子」として規定下限の二十一歳で従四位下となっており、もし棟貞王が基兄王と同じく二十一歳で従四位下になっているとすれば、承和３（８３６）年生まれ。
なお、『日本文徳天皇実録』等にみられる「基棟王」も兄弟とされるが、彼は承和５（８３８）年以前に正五位下に叙されている。選叙令には初叙を正五位下とする規定はなく、基棟王は貞純親王とは別流の三世王以下の王で、「基棟王」を名乗る前に別名を称していた可能性がある。
天安２（８５８）年４月１１日、「於諸大神社」に宣命を伝える使者の一人として「散位従四位下棟貞王」が見える（『日本文徳天皇実録』天安二年四月十一日条）。
貞観６（８６４）年正月１６日、「散位従四位下棟貞王」は「下野守」となる（『日本三代実録』貞観六年正月十六日条）。
貞観７（８６５）年正月２７日、「従四位下行下野守棟貞王」は「越中守」に移った（『日本三代実録』貞観七年正月廿七日）。
貞観８（８６６）年正月７日、「賜祿各有差」て「越中守棟貞王」もその対象となっている（『日本三代実録』貞観八年正月七日）。
貞観１１（８６９）年２月１日、清和天皇第一皇子の貞明親王が「皇太子」に立てられ、３月２７日、「参議民部卿正四位下兼行春宮大夫伊予守南淵朝臣年名、従四位上行中務大輔棟貞王」がその報告の使者として「深草田邑両山陵仁明、文徳」に遣わされた（『日本三代実録』貞観十一年三月廿七日条）。そして翌貞観１２（８６９）年１２月２９日、棟貞王以下十九人が清和天皇の侍従に任じられた。こののち、
●貞観12(869)年12月29日侍従補任（『日本三代実録』貞観十二年十二月廿九日条）
| 従四位上（王氏） | 棟貞王 |
| 従五位上（王氏） | 連扶王 |
| 従四位上 | 源朝臣覺 |
| 従四位下 | 源朝臣元長 |
| 従五位上 | 藤原朝臣興世、橘朝臣春成、家原宿禰氏主、高向朝臣公輔、藤原朝臣積善 |
| 従五位下 | 春道宿禰永蔵、興道宿禰名継、藤原朝臣宗枝、巨勢朝臣文雄、平朝臣季式、多治真人藤善、藤原朝臣門宗、藤原朝臣遠経、橘朝臣廣相、高階真人令範 |
貞観１８（８７６）年正月１４日、「従四位上行中務大輔兼因幡権守棟貞王」が「神祇伯」となった（『日本三代実録』貞観十八年正月十四日条）。貞観１８（８７６）年４月１０日深夜子ノ刻時、大極殿が火災となり、小安殿まで延焼し、蒼竜・白虎の両楼、延休堂および北門北東西三面の廊百余間が焼失。火は数日間消えることはなかった（『日本三代実録』貞観十八年四月十日条）。５月３日、「従四位上行神祇伯棟貞王」は勅使として伊勢大神宮へこの「告以大極殿」の火災を伝えた。
元慶２（８７８）年８月２４日、朝廷は「神祇伯従四位下棟貞王」と「従五位下行木工助大中臣朝臣伊度人」を勅使として伊勢太神宮へ奉幣に遣わした（『日本三代実録』元慶二年八月廿四日条）。
元慶４（８８０）年２月５日、大極殿の再建が終わったことを受けて、朝廷は「正四位下行右京大夫兼山城権守基棟王」を「賀茂御祖別雷両社」に遣わし、「従四位上行山城守棟貞王」を「松尾社」へ、「散位従四位下和王」を「平野社」へ、「従四位下行右馬頭藤原朝臣門宗」を「大原野社」、「正五位下行神祇大副大中臣朝臣有本」を稻荷社へ派遣して奉幣した（『日本三代実録』元慶四年二月五日条）。
元慶７（８８３）年７月１３日、伊勢大神宮に「従四位上行神祇伯棟貞王」が遣わされた。これは去６月２７日に「鷺、集大極殿鵄尾」という変異、ならびに「主上可患疫病、又天下将憂風水」についての報告である（『日本三代実録』元慶七年七月十三日条）。
元慶８（８８４）年４月１０日、「伊勢斎宮内親王」の報告のため「従四位上行神祇伯棟貞王」「従五位下行少副大中臣朝臣常道」が伊勢大神宮へ奉幣に出立した（『日本三代実録』元慶八年四月十日条）。さらに９月１１日にも「従四位上行神祇伯棟貞王」「大副従五位上大中臣朝臣有本」を伊勢大神宮への奉幣使に派遣している（『日本三代実録』元慶八年十一月十日条）。
仁和３（８８７）年５月１３日、「従四位上行神祇伯棟貞王」は「武蔵権守」に補任された。こののち、棟貞王の事歴は伝わらない（『日本三代実録』仁和三年五月十三日条）。
●武蔵権守に補任された人
| 名前 | 生年 | 初叙 | 武蔵権守補任時の官位 | 続柄 | 補任 | 没年 | 備考 |
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房世王 （平房世） |
従四位下 | 従四位下 | 仲野親王子（二世王） | 天安2(858)年 2月5日 |
元慶7(883)年 | 承和13(846)年正月7日 无位→従四位下 姉妹の班子女王は光孝天皇女御で宇多天皇生母。 |
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| 平有世 | 正六位上 | 従五位上 | 父母不詳 四～六世王 |
貞観6(864)年 正月16日 |
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| 弘道王 | 正六位上 | 従五位上 | 父母不詳 四～六世王 |
元慶2(878)年 12月11日以降元慶4(880)年 2月4日 までの間 |
貞観9(867)年正月7日： 正六位上→従五位下 元慶元(877)年11月21日： 従五位下→従五位上 |
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| 源行有 | 斉衡元(854)年 | 従四位上 (22歳) |
従四位上 | 文徳天皇子 （一世源氏） |
貞觀17(875)年 正月13日以降 元慶8(884)年 2月5日 までの間 |
仁和3(887)年 6月20日 34歳 |
貞觀3(861)年4月25日、文徳天皇皇子、男二人女三人、未定名號、是日、或為親王、或為朝臣 ●親王宣下：母藤原朝臣氏 ・惟恒親王 ・禮子内親王 ●源朝臣賜姓：母諸氏 ・源行有（母布勢氏） ・源富子（母菅原氏） ・源淵子（母滋野氏） 貞觀17(875)年春授従四位上 貞觀17(875)年正月13日：従四位上源朝臣行有為美作守 |
| 源長淵 | 従五位上 | 従四位上 | 清和天皇子 （一世源氏） |
仁和元(885)年2月20日 | 元慶7(883)年正月7日： 无位→従五位上 |
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| 棟貞王 | 承和3(836)年頃 | 従四位上 | 従四位上 | 葛井親王子 （二世王） |
仁和3(887)年 5月13日 |
齊衡元(856)年正月7日： 无位→従四位下 |